夜「でもさ、どういしてこういうことになっちゃったのかしら。」「デジャブってのか。SFとかで、よくある。でも、ふたりそろって、ていうのも、どうなんだろ。」 松林は、冷蔵庫から缶ビールを二缶とりだし、なにもいわずに柴に渡した。柴も、それをごく自然にあけ、口につけた。 「松林、」 「松林じゃなくて、美佳でいいわよ。」 「美佳、おれさ、夢かどうかわからいんだけど、美佳と、」 「いわないでいい。本当よ。私もしっかり身体というか、記憶が覚えている。」 「そうか。あれは本当だったんだ。」 しばし、柴は、飲み干した缶ビールをテーブルに置き、両手をゆかにつき、ぼーっと天井をながめていた。 「どうしたの?」 「うん、なんだか、いま、なんともいえぬ安堵感のようなもの感じてる。不思議なくらい、ほっとするっていうか。」 「それは、わたしも同じよ。」 美佳は、缶ビールをテーブルに置くと、立ち上がってキッチンに行き、小さい灰皿を持ってきて缶ビールの脇に置いた。 そして、会社に持っていっているバックから、セーラムライトを一本とりだし、火をつけた。 「美佳は、たばこ吸うのか?」 「うん、いつもじゃないけどね。」 深く吸うと、ふーっとはいた。 「おれさ、さっきは知らないって言ったけど、噂はきいてる。」 「やっぱり。」 「専務とのウワサ。」 「これ、柴さんにはわかってほしいんだけど、男と女の関係じゃないからね。専務は義理の兄なの。私の姉のお兄さん。仕事のことで相談にいったら、おれのところへこないかって。」 たしかに、後ろめたいところがないからこそ、会社の近くで二人でいても、なんにもないわけだ。柴は思った。 「ごめん。」 「柴さんが謝ることはないわよ。うわさなんて、そういうもんよ。」 美佳のたばこの灰が3センチほどになっているのが、気になる。柴は、灰皿を渡した。 「ありがとう。そういえば、きょう、日付けかわったから、宝くじの当選のわかる日ね。」 柴はすっかり忘れていた。 「なんか、本当に今日は寝たくないな。」 「私も。」 「このまま、おきていて、きょう宝くじの発表を見にいくか?」 「でもさ、お局様がなあ、」 「なにかあるのか?」 「最近ね、私が帰ったあとメールをすべてみられてるような節があるのよ。とにかく、あら探しの天才のようなところあるから、気をつけないと。」 「そういえば、美佳はメッセンジャーって、いれてるか?」 「なに、そのメッセンジャーって?」 「いや、いいんだ。」 「柴さん、シャワーでもあびる?」 「そうするかな。いいのか?」 「いいわよ、それまでにここ、片付けとくから。」 時計は、1時半を過ぎていた。 ジャンル別一覧
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